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拝啓 春の日差しが暖かくなってきました。お元気ですか。私は元気です。 昔、1通の手紙を書きました。中学校を卒業した年の3月31日 …
拝啓
春の日差しが暖かくなってきました。お元気ですか。私は元気です。
昔、1通の手紙を書きました。中学校を卒業した年の3月31日に、10年後の「わたし」に向けて。その手紙は実家の机の引き出しにずっと眠っていました。
そして10年後の3月31日。わたしはその手紙を開きます。
25歳。地方新聞社に入社し、社会人3年目を終える春。
まだワークライフバランスなんて考えられていなかった時代です。入社してから夜10時や11時に帰ることは当たり前。
周りは自分より優秀な同僚ばかり。勤務がきついことなんて分かってこの会社に入ったけれども、やっぱりしんどい。
そんな仕事への希望よりつらさに近い気持ちの中、開いたのがこの手紙です。
「春の日差しが暖かくなってきました。お元気ですか」から始まる他人行儀な文面。幼く、拙い文章をつづるその字は、期待に満ちていました。
「〇〇さんとはまだ友だちですか」「好きな人とはどうなりましたか」「10年後、どんな場所で働いていますか」「夢は達成できましたか」
スヌーピーの封筒と便箋に書かれたわずか2枚の手紙。同封されていた中学校の卒業式で友だちと一緒に撮った写真を眺めながら、思わず笑ってしまいました。
友だちの〇〇さんは大学が別々になり、縁遠くなってしまったこと。中学時代、好きだった人は結局友だち止まりだったこと。
あの頃には「今」だったことが「過去」として懐かしい思い出とともに浮かびます。
「将来は文章を書く仕事につきたいです。10年後、どんな場所で働いていますか。夢は達成できましたか」
そうでした。中学の頃からそんな夢を追ってきたのでした。
その時、自分は子どもの頃の夢を達成できているのだと自覚しました。そうか、今わたしはあのときの夢にいるんだ、と。
夢はあくまでキラキラしたもの。現実とは差があります。それでも、過去の「わたし」の無邪気な文章は、今の「わたし」を元気づけてくれました。せっかく夢の中にいるのだからもうちょっと頑張ってみよう、と。
それ以来、わたしは時々「わたし」に手紙を書きます。
その時々の今の自分に合った封筒や便箋、同封するものを選んで。あの頃はスヌーピーと卒業式の写真でした。今はもうちょっと大人なものを。
「花ライン柄」の飾り罫が大人な可愛さがある便箋。昔ながらの印刷技法「活版印刷」で刷られたもので、昔から書物や印刷物を美しく彩ってきたものです。モダンな黄色とグレーの組み合わせで印刷され、印圧によって生まれる凸凹は、触ると独特の手触りがあります。手紙を開いた時に温かな気持ちにさせてくれるはずです。
文字が書きやすいふかふかとした優しい書き心地の紙にボールペンを当てます。
書き上げた後は仕上げに、美しく丈夫な友禅紙でお香を包んだ、小さな匂い袋を添えて。
大人になった自分から、もう少し歳を重ねた自分へ。
きっと封を開け、香りが漂ったときにこの手紙を書いた「いま」のことを思い出すのでしょう。
「お元気ですか。私は元気です。最近なにしてる?」
そんなことでいいんです。相手を思っている時間があったことが、受け取った相手に伝わります。
自分宛でも、久しぶりになってしまった人宛にでも。
ちょっとお手紙、書いてみませんか。
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