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311の東日本大震災後、無性に何かを削ぎたくなった。会社を削ぐとスタッフさんに迷惑がかかるし借金が返せなくなる。思い悩んだ結果、体 …

311の東日本大震災後、無性に何かを削ぎたくなった。会社を削ぐとスタッフさんに迷惑がかかるし借金が返せなくなる。思い悩んだ結果、体を削ぐことにした。約一年、肉と魚をやめて、野菜と玄米をたまに食べるくらいにして、おおよそ飲まず食わずで過ごした。次第に顔がムンクの叫びのようになり、人に会うと病気かと心配され、取引先からは「会社は大丈夫か」と心配されてしまうので、人に会うのが億劫になった。

15㌔の米をかついでよろけ、こかしたバイクを立ち上げられないとわかったときに、社会不適合者という言葉が浮かんでやめた。体重は60㌔から39㌔になっていた。本人は、どこまで痩せるのかが面白くてしょうがなかったのだけれど。

ご飯を食べないと大きい方を足すためにトイレに行かなくてよくなる。食材の購入、調理、後かたずけがなくなる。外食も、何を食べるのかを考える時間と食堂までの往復の時間と食す時間がなくなる。すると、本当に持て余すくらいに自由な時間が増えた。どれだけ人は食べるために時間を使っているかを思い知った。

「千と千尋の神隠し」の冒頭で、千尋の両親がガツガツ食べて豚になるシーンがあるが、その映像と真逆のように思えた。食べることをやめると、心は清々しくなる。

しかし知識がないままやみくもにやったので、筋肉がげっそり落ちた。この後遺症は思った以上に大きかった。50回はできた腕立て伏せが10回で息が上がる。富士山登山をしたら膝が壊れた。

体力は落ちたが効能もあった。それは、体が敏感になったことだ。

保存料や食品添加物が多めのお弁当や加工食品を食べると、すぐに排泄する体になった。糖度の高いものを食べると、血糖値がドカンと上がって、その後カラダが冷え始めるのが如実にわかる。(血糖値が上がるとインシュリンが出てカラダが冷える現象)。酸化が激しい食品を食べると、途端に筋肉が固くなり始め、違和感が出てくる。逆に採れたての瑞々しい食品を食べると、元気がもりもり出てくる。

このギャップの取り扱いに悩み、西荻の食養の大家、大森一慧先生のところに遊びに行って相談した。すると一慧先生は、「あんたね、食べ物でカラダがどう変化するかを敏感に感じられる能力を手に入れたのだから、それを世の中の役に立てなさい!」と申された。

この一言が命取りになった。うっかりその言葉に乗って、服屋のおやじが食品事業に手を出し、大きな損失を出すことになっていく。